隈研吾が語る新駅に込めた想い
未来をつくる、駅のこれから(中編)
移動のための通過点から、「エキナカ」に代表される商業空間を生み出すなどその価値を高め続けてきた「駅」。オフィスワーカー向けの新しいサービスの誕生や地方中核駅を中心とした自治体などとの連携によるまちづくりといった取り組みにより、駅はより生活者に寄り添う拠点へと今も進化し続けている。これから求められる駅とは、どのような姿なのだろうか。
駅は人々の共通の場所であり、
こころの拠り所でもある
3月14日に開業した「高輪ゲートウェイ駅」。デザインを担当した隈研吾氏は、東北本線「宝積寺駅」や2023年開業を目指すフランス・パリの「サンドニ・プレイエル駅」など、国内外で鉄道駅の設計・デザインを手がけている。そんな隈氏に、これからの駅の在り方や理想について話を伺った。
隈研吾 くま・けんご
建築家
1954年生まれ。東京大学建築学科大学院修了。大学では原広司、内田祥哉に師事。大学院時代に、アフリカのサハラ砂漠を横断し、集落の調査を行い、集落の美と力に目覚める。コロンビア大学客員研究員を経て、90年隈研吾建築都市設計事務所を設立。20カ国を超す国々で建築を設計、国内外でさまざまな賞を受賞。その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案している。
世界中に駅はありますが、大都市や地方都市、周囲に自然があるなど、駅は場所によって機能や文化はもちろん、そこから見える風景も違います。
もっとも、日本では、どこにあっても同じように感じられてしまう。そんな駅が多いようにも思います。これからは、その場所性を感じられる駅が造られることが重要で、私は周囲に美しい山があれば、それを生かすような駅を造っていきたいと考えています。
例えば、今回の高輪ゲートウェイ駅は自然を意識しました。東京は俯瞰すると東に海を、西には山を持つ位置にあります。そうした自然が近い場所に存在しながら、都心にはそれが感じられる駅がありませんでした。そこで、自然を身近に感じられる駅にしようと、木を基調としたデザインにしています。
また、駅周辺に新しいライフスタイルを持つ街をつくる計画があったことから、その広場となる駅を目指しました。駅と街が一体となり、海と山をつなぐ──そんな空間をつくり、駅全体を覆う屋根を高くあげることで、街の空気が入り込んでくるようなデザインとしています。
効率化が進むからこそ
温もりのある駅舎が必要
子どもの頃、親に連れられて行った上野駅は天井が高く、上部から光が入ってくる空間に、とてもワクワクしました。当時の日本人は、丁寧に正確につくられた日本の鉄道システムに愛着を感じ、誇りを持っていて、多くの人が駅を中心に生活をしていたように感じます。
かつて、日本の街道には宿場があり、そこに人が集まっていた。交通の要衝となる便利なところにコミュニティが形成され、それを大事にしてきたわけです。そして日本に鉄道網が広がる過程で、駅はそうした場として認識された。つまり、日本人にとって駅は、村の広場のようなコミュニティの中心となる場所だったのです。
現在、日本では人口減少や、それに伴う働き手不足、地方都市の過疎化などが進んでいます。そのため、全ての駅にこれまで通り人を配置するわけにもいかず、自動化の流れは必然でしょう。しかし、その分、駅舎は「温もり」を感じるものにしたほうがよいと考えています。機能的で、ムダがないが、とても温かい。私が理想とする駅は、子ども時代の思い出にある、温かみのある昔ながらの木造の駅がベースになっています。これからの駅は、街の、村の、かつての広場のように、人々にとって共通の場であり、ここに駅があるから帰ってくるといった「こころの拠り所」にもなる象徴的な場になってほしい。
駅に人が集まれば
周辺地域は活性化する
交通の拠点以外の要素も期待したいですね。例えば近年、都市部では駅に保育園ができたりしていますが、地方の駅も商業機能だけでなく、さまざまな生活を支援する機能を持ってほしい。小さな駅でも、駅の機能を充実させれば、再び人が駅に集まり、周辺が活性化するという逆転現象が起こるのではないでしょうか。
世界では環境の視点から、人々の鉄道への回帰が進んでいます。日本でも「まちなかウォーカブル推進プログラム(*)」が策定され、自動車空間を再配分し、人を中心とした街路空間の広域化が図られています。それに伴い、駅の存在も見直されています。20世紀の都市計画は商業地域や住宅地域など、機能によって分割されていましたが、これからは一つの地域の中に、食べるところ、住むところ、働くところもあるという構造になるのではと想像します。そこから予想もつかないような、新しい駅の使い方が生まれてくると楽しいですね。
* 国土交通省がとりまとめた、官民の連携による「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を実現するためのプログラム
高輪ゲートウェイ駅
模型等に見る隈研吾デザイン思想の道程
3月に開業した高輪ゲートウェイ駅は、JR東日本の車両基地跡地の一部を利用して誕生した。
デザインは世界的建築家の隈研吾氏が担当。駅周辺は、港区三田など田町駅の南エリアから同区高輪など品川駅の北エリアまで、約13haに及ぶ敷地を、新たな国際交流拠点として開発する計画が進んでいる。
新駅のコンセプトは「エキマチ一体」。駅に降りた瞬間に街を感じ、街とシームレスにつながる新しい形を目指した。
駅舎は和を感じられるデザインとし、折り紙をモチーフとした大屋根を設置。列車から降りたお客さまに開放的な吹き抜けや大屋根といった、印象的で忘れがたい空間を見せることで、駅全体でお客さまへのおもてなしの気持ちを表現した。屋根のフレームには鉄骨と木の集成材を活用。他にもいたるところに木材を多用することで温かみの感じられる駅が完成した。
01 計画初期段階、駅全体だけでなく街まで含めて大きな屋根で覆う提案をした。「折り紙」の原型が見える
写真等提供:隈研吾建築都市設計事務所
02 駅内部がどう見えるかを試した。実現案よりも屋根が高く四つ股柱が立っている。線路側に植栽を検討
写真等提供:隈研吾建築都市設計事務所
03 屋根の形や暫定デッキの検討模型。大屋根は下がって街に向かい合っている。この部分は実現案では変更した
写真等提供:隈研吾建築都市設計事務所
04 工事前最終パース。街に向かって屋根を折り上げ、透明なガラスのカーテンウォールを設置し、街とつながるデザインとなった
写真等提供:隈研吾建築都市設計事務所
掲載内容は、2020年3月までに取材を行い、各情報は、5月時点のものです。