行ってみた! 聞いてみた!
野生動物との衝突防止対策
列車の安全運行と動物の命を守る取り組み。JR東日本ではどのような対策が取られているのか、今回はその現場の最前線を聞いてみた。
信州ジビエのチカラ(前編)で取材した藤木シェフに、ご自身が体験した農作物以外の獣害について聞いてみたところ、「僕も中央本線に乗るんですが、鹿にぶつかって止まることがあります」と伺った。
確かに、地方の列車を利用したとき、動物と接触して止まった経験を持つ人も、いるのではないだろうか。「鉄道獣害」などといわれているが、こうしたことは列車の安全運行を妨げるだけでなく、動物の命も失われてしまうから大きな問題だ。
鉄道獣害は増加傾向にあるという。JR東日本管内では、2018年度に1166件、19年度に1345件が発生している。ぶつかる動物の約8割は鹿で、その理由の一つに挙げられるのが、日本の森林の状況だ。間引きなどの手入れがされていないため、鹿の好物である柔らかい草が生えてこない。そのため、餌を求めて山から下りてくる。また、土砂崩れなどを防止するためにつくられた人工林が増えたことも、鹿の増加につながっているともいわれている。
では、この問題に対して、JR東日本では、どのような対策が取られているのであろうか。
光や音、臭いを駆使し、動物を線路に近づけない
JR東日本では、地形や気候なども含めた各線区の状況を調べ、それに応じた取り組みをしているという。その一つが「柵」だ。当然、ただ単に柵を設置するだけでなく、動物が侵入しにくい角度をつけたり、強度の高いものにするなど工夫を凝らしている。他にも、線区に現れる特有の動物が生理的に嫌う光や音、臭いなども利用。これらを発するさまざまな機器を設置することで、動物を線路自体に近づけないような試みも行っている。実際、対策を実施した区間では衝突が減り、効果も出ている。
こうした取り組みは、JR東日本のみならず、年に1度、JRグループ各社が会議を開催し、獣害対策を共有しているという。とはいえ、彼らと人間がすみ分けられる環境をつくらなければ、解決は望めない。この問題は、自然と人の在り方を考える、よいきっかけとなった。
長野支社管内における鹿対策について
1. ワイヤーメッシュ柵
中央本線・篠ノ井線・小海線(一部区間)
10年ほど前から強度の強い金網フェンスが設置された。一定の効果が確認されたため、現在では各線区の鹿柵のほとんどがこのワイヤーメッシュ柵になっている。
2. 小海線110系列車への忌避音装置
鳴動区間:小淵沢〜小海駅間
鹿侵入防止柵以外での衝突対策として、2015年に小海線車両に忌避音装置が設置され、運行時に忌避音を鳴らしている。2019年には忌避音の慣れ防止として、音の種類を3パターンに増やしている。
3. 設置型忌避音装置
中央本線・篠ノ井線・大糸線
鹿侵入防止柵が設置できない川、用水路周辺の切り欠き部分から鹿が進入するケースがあるため、2018年より進入しやすい地点に忌避音装置を試験導入し、効果を上げている。
4. 侵入抑止柵
篠ノ井線
鹿が線路内に侵入しにくい形状が施されていて、衝突件数の減少に貢献している。ネズミ返しの要領で進入を防ぐ仕組みとなっていて、侵入しにくく、万一進入しても逃げやすい構造となっている。
ベンチャーとの共創で鹿を寄せ付けない
スズメバチの羽音で獣害対策
JR東日本グループの「JR東日本スタートアップ」は、広島県の「はなはな」と共同で、2018年度に同社の害獣侵入忌避システム「境界守(きょうかいもり)」を設置し、JR山田線の一部区間で実証実験を行った。「境界守」は線路脇に塩化ビニール製のパイプを設置。スピーカーからスズメバチの羽音をパイプ内に流すことで、スズメバチの仮想生息域をつくりだし、スズメバチが苦手な鹿を寄せ付けないというシステムだ。実験期間中の衝突は0件。近隣住民からも鹿が減ったとの声が寄せられた。今年度中に、釜石線釜石駅構内および小海線一部区間に設置が予定されており、効果が期待されている。
ソーラーパネルで充電できるため、電源不要のエコなシステムでもある