有田秀穂 ありた・ひでほ
脳生理学者
1948年東京都生まれ。東邦大学名誉教授、セロトニンDojo代表。セロトニン研究の第一人者。東京大学医学部卒業後、東海大学病院、筑波大学基礎医学系などを経て、東邦大学医学部統合生理学で座禅とセロトニン神経・前頭前野について研究。2013年に退職、名誉教授となり、セロトニンDojoを開く。『脳からストレスを消す技術』(サンマーク出版)『セロトニン欠乏脳』(NHK出版)など著書多数。
社会人のための教養コラム
有田秀穂先生に聞く
「セロトニン(セロ活)」で毎日元気に過ごす方法
新型コロナウイルス感染症の流行により、ストレスから心身の不調を訴える人が増えています。「ハッピーホルモン」といわれるセロトニン。正常に分泌させる“セロ活”を推奨する有田秀穂先生に、セロトニンを増やして元気に過ごす方法を伺いました。
ハッピーホルモン、セロトニンを増やせ
セロトニンは、脳幹にあるセロトニン神経から分泌される神経伝達物質です。感情や精神面、睡眠など人間の大切な機能を健全な状態に保つ重要な役割を担っており、ハッピーホルモンともいわれます。不足すると慢性的な疲労を感じたり、イライラしたり、うつ病を引き起こしたりします。
セロトニン神経は寝ているときにはほとんど活動しませんが、朝起きると神経細胞の一部である軸索を通して脳全体にセロトニンを行き渡らせるために、活動を開始します。主な働きは、①しっかり覚醒させる、②心のバランス(平常心)を保つ、③自律神経を整える、④姿勢や顔つきをシャキッとさせる、⑤不定な痛みを抑える、の5つです。
このように、セロトニンが正しく分泌されていれば、気持ちよい朝の目覚めとともに、体、心、自律神経などが健全に動きだします。
逆に、セロトニンが十分に分泌されないと、「セロトニン欠乏脳」になり、朝起きられず、シャキッとせず、見た目も弱々しくなってしまうのです。
生活習慣を変え、まず3カ月
ではどうすればセロトニン神経を活性化できるのでしょうか。セロトニンの正常な分泌のために行ってほしい生活習慣が3つあります。
まず、朝起きたら太陽の光を浴びること。人間の脳には目の網膜を介して太陽光の刺激を電気信号として受け取り、セロトニン神経を活性化する回路が備わっています。電球の光では照度が足りないので、庭やベランダに出て、太陽光を浴びる習慣をつけましょう。
2つ目は、ウオーキングや意識的な深呼吸などのリズミカルな運動です。ポイントはウオーキングに集中すること。長時間通勤をしていても、通勤時の歩行はさまざまな情報が目や耳などから入ってきて集中できないため、セロトニンは増えません。人気の少ない公園などで集中して歩ければ理想的ですが、適当な場所がなければ、マンションの階段の上り下りや自宅の階段などでもよいのです。イヤホンでお気に入りのノリの良い音楽を聴きながら歩くのもお勧めです。ただしラジオは集中を欠くので避けましょう。
重要なのは、疲れたらやめること。疲労はセロトニンが減ってきた証拠です。
3つ目は、おしゃべりやスキンシップ、すなわちグルーミング行動です。グルーミング行動は、愛情ホルモンといわれるオキシトシンの分泌を促し、オキシトシンの分泌はセロトニン神経を活性化します。コロナ禍の現在、直接会うのは難しい面もあるでしょうが、電話やオンラインの会話でも効果があります。また、子どもとの相撲ごっこや、ペットとの触れ合いなども非常に効き目があります。
セロトニンは貯金できません。生活習慣を変え、毎日の生活の中で増やしていくことが大事なのです。重要なのは、集中と継続です。継続して行うと、起床時のセロトニン信号の頻度が増えますので、自分に合ったやり方を見つけて、まず3カ月続けてみてください。毎日が元気に過ごせるようになり、効果が実感できるはずです。