JR東日本総合研修センターの敷地内に構築された実物大模擬設備
行ってみた!聞いてみた!
来るべき新幹線大規模改修に向けた技術開発の挑戦
実物大新幹線模擬設備に行ってみた
東北新幹線の大規模改修における機械化・効率化等を可能にする技術開発を推進すべく、その検証を行う実物大模擬設備が、JR東日本総合研修センターの敷地内に構築された。今回はその設備を見に行ってみた。
JR東日本は2031年度から、橋りょうやトンネルなどの新幹線の構造物を対象に、10年間にわたる大規模改修を計画している。対象は東北新幹線(東京~盛岡間)および上越新幹線(大宮~新潟間)の計約780㎞。両新幹線は、1982年の開業から約40年が経過しており、将来にわたる安定輸送確保のために重要な施策だ。改修に先駆け21年3月、福島県白河市にある総合研修センターの広大な敷地を利用して、実物大新幹線模擬設備が構築された。目的は、今回の大規模改修で機械化などによるコストダウンを可能とする技術開発、および検証の実施だ。それ以外にも、新入社員研修に有効活用される予定となっている。
今回、できたばかりの模擬設備を、JR東日本研究開発センター フロンティアサービス研究所の古川武英研究員に案内してもらった。古川研究員の所属は新幹線大規模改修・高速化グループ。同グループでは、機械化などによるコストダウンを目指し、大規模改修に向けて技術開発および検証を実施している。
ご案内いただいた古川武英研究員。写真右側は開発中の仮設線路防護柵
大規模改修のためにやるべきことは盛りだくさん
模擬設備には約80mの高架橋、30mのトンネル、土工設備、175mにわたる軌道を配置。高架橋は東北・上越新幹線の標準的な形状に加え、東北新幹線初期に構築された総合試験線区間を再現、トンネルは曲線区間のカント(2本のレールの高低差)を変化できる構造とするなど、あらゆる検証を想定したものとなっている。
見学してわかったのは、新幹線の構造物の改修と一言でいっても、さまざまなことを考えなければならないということ。例えば、高架橋の改修では、騒音を低減させる防音壁の交換や表面改修などやるべきことは盛りだくさん。さらに防音壁一つとっても、より高性能な防音壁の開発のための検証や、効率的な取り替えのための施工方法の検討も必要となる。
「25年度以降の営業線での試験施工に向け、模擬設備でしかできない施工性向上に関する技術開発を進めていきます」(古川研究員)
31年度の"本番"を目指した挑戦は、まだ始まったばかりだ。
実物大新幹線模擬設備の概要
高架橋
防音壁は東北・上越新幹線の標準的な形状に加え、東北新幹線の構造の異なる区間を再現。防音壁の開発や施工の効率化、高架橋の表面改修工事の技術開発、仮設撤去可能な昼間施工のための仮設線路防護柵の開発などが行われる。
高架橋上にはE5系の車両を模した実物大の壁を配置。その外側にさまざまな防音壁を設置したうえで、走行音に対する効果を検証する
また、高架橋劣化の要因の一つである水の浸入などを対策した材料開発の効果検証のために、水分検知や温度などを測る約500個のセンサを埋設。さらに、人力で測定していたコンクリート表面から鉄筋までの距離を省力すべく、鉄筋探査ロボットの検証も行う。
(左)車両と防音壁の間は約1.8m (右)防音壁の取替工事の方法についてもモックアップで検証していく
トンネル
新幹線の複線断面を模擬、写真右側の線路は曲線区間、左側は直線区間を再現した。曲線区間ではカント調整機構を利用した作業台車などの開発や使用性の検証、直線区間を含むトンネル壁面では、材料の施工性向上に関する試験が行われる。
トンネルの全長は30m。施工環境に影響されにくい材料工法の開発なども行われる
作業台車などの開発のため、内部の軌道はカントの調整が可能
土工設備
コンクリート製の土留壁と背面の地山を模した盛り土で構成。改修作業の機械化や足場の簡素化などにより、のり面工回収作業に関する工法の開発や効率化を検討する。
土工設備は30mにわたり、土留壁はコンクリート製で高さは約3m。後ろの盛り土は高さ約5m
軌道
高架橋上の70mを含め、計175mの線路を敷設。効率的な改修箇所の把握手法の確立や施工の機械化に向けた性能試験などを行う。
高架橋上の軌道は約70m。線路のつなぎ目中央に見える円の黒い部分は特殊な樹脂でつくられており、車両通過時に線路が動いた際に互いに損傷しないようになっている
トンネル内から続く軌道の長さは105m