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「祭り」を守れ!<br>Case.2 秋田県男鹿市 なまはげ柴灯まつり<br>伝統行事を観光客が体感<br>継承を考えるきっかけにする

1961年に秋田が生んだ現代舞踊家・故石井漠氏が振り付け、息子の作曲家・石井歓氏が曲を付けた「なまはげ踊り」。柴灯火(せどび)の前で披露される勇壮な踊りに魅了される

「祭り」を守れ!
Case.2 秋田県男鹿市 なまはげ柴灯まつり
伝統行事を観光客が体感
継承を考えるきっかけにする

2018年にユネスコ無形文化遺産に登録された男鹿半島の伝統行事「男鹿のナマハゲ」。「なまはげ柴灯(せど)まつり」は、地元で行われている神事と民俗行事「男鹿のナマハゲ」を組み合わせた観光行事。この祭りの今、また伝統行事自体の現状は、どうなっているのだろうか。

ナマハゲは男鹿の人たちのアイデンティティ

 大晦日の晩に集落の青年たちがナマハゲに扮し、「泣ぐ子はいねがー」などと大声を上げながら、家々を回る秋田県・男鹿半島の伝統行事「男鹿のナマハゲ」。ナマハゲは人々の怠け心を戒めるとともに、厄災を祓(はら)い無病息災や豊作、豊漁などをもたらす来訪神であるとされる。この夜、家々では迎え入れたナマハゲを料理や酒などでもてなす。
 「ナマハゲは男鹿の人たちのアイデンティティです。私も男鹿の出身なので、子どものときには親から『いつもナマハゲが見ているんだから、悪いことはできないよ』と言われながら育ちました。ナマハゲは男鹿の子どもたちの道徳教育にもなっています」
 こう語るのは、男鹿市の菅原広二市長だ。

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菅原 広二
男鹿市長

 2018年には「男鹿のナマハゲ」を含む全国の10の伝統行事が「来訪神:仮面・仮装の神々」として、ユネスコの無形文化遺産に登録された。これによりナマハゲに対する市民の思いはさらに強まった、と菅原市長は言う。
 「人口減少が進む中で大晦日のナマハゲ行事を中止していた集落もありましたが、ユネスコに登録されたことを契機に、行事を復活させる動きが出てきました。この2年間はコロナ禍を受けて自粛をした集落が多かったものの、家の中に上がらない、大きな声を出さないなどの工夫で、何とか継続を図った集落も見られました」(菅原市長)

ユネスコに登録されて祭りへの注目も高まる

 大晦日のナマハゲは、地域住民の行事であり、観光客向けのものではない。そこで男鹿ではこれとは別に、1964年より伝統行事の「ナマハゲ」と、地元の真山(しんざん)神社で1月3日に行われる神事「柴灯祭(さいとうさい)」を組み合わせた、「なまはげ柴灯(せど)まつり」を毎年2月に開催している。真山神社を会場に、大晦日のナマハゲ行事の再現や、「なまはげ踊り」「なまはげ太鼓」などが披露される。
 男鹿市観光文化スポーツ部観光課の長谷部達也課長は「この祭りのクライマックスは、ナマハゲがたいまつを持って雪山から会場に下りてくるシーンです。来場者の多くが、その幻想的でありながら迫力のある雰囲気に圧倒されます」と語る。
 ユネスコの無形文化遺産への登録は「なまはげ柴灯まつり」にとっても追い風となった。登録直後の19年2月に開催された祭りでは3日間で来場者数7600人を記録。入場者制限を行わなくてはならないほど盛況だった。
 なお、コロナ禍の影響でほかの多くの祭りが中止になる中、男鹿市では事前申込制にして来場者を絞るなどして「なまはげ柴灯まつり」を継続開催している。

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(左上)若者が神(しん)の入った面を授かりナマハゲとなる「なまはげ入魂」
(左下)なまはげと和太鼓を組み合わせた新しい郷土芸能の「なまはげ太鼓」
(右)たいまつをかざしたなまはげが雪山を下りる姿は見る人を圧倒する

関係人口の増加に寄与するナマハゲ伝導士認定試験

 男鹿市では、祭りを観覧したことなどをきっかけにナマハゲに興味を抱き、より深く知りたい、学びたいという人向けに、03年より市観光協会主催で「ナマハゲ伝導士認定試験」を開催している。受験者はナマハゲの文化や歴史、作法についての講義や研修会(なまはげ館と男鹿真山伝承館の見学)を受けた上で試験に臨む。合格者は累計で1500人を超えた。
 「合格者の内、5割強は県外在住者の方です。また県内在住の受験者の中にも、転勤で秋田県にやってきた方が、地域のことをもっと知りたいと考えて受験するというように、地元以外の出身者が多く見られます」(長谷部課長)

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長谷部 達也
男鹿市観光文化スポーツ部観光課長

 試験に合格し、ナマハゲ伝導士に認定された人の中には、男鹿やナマハゲについての情報をSNSなどで積極的に発信してくれる人もいる。また22年2月のなまはげ柴灯まつりから、伝導士認定者は無料で入場できることにした。つまり伝導士制度は、ナマハゲを通じて、男鹿市の関係人口(※)を増やすことに寄与する仕組みともなっている。

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「ナマハゲ伝導士認定試験」の合格者に発行される認定証

 さらに男鹿市においては、市観光協会と連携して、大晦日の伝統行事であるナマハゲを実際に体験してみたいという人のために、集落での行事参加を旅行商品として販売することも行っている。このように大晦日のナマハゲは、あくまでも集落内で受け継がれてきた行事だが、ナマハゲの担い手不足を解消するために、地域外の人の参加を認めるところも出てきた。
 「ただし積極的に市から集落に対し、ナマハゲの行事を外部に開放してもらうようお願いすることはありません。自分たちの伝統行事をどのような形で継承していくかは、それぞれの集落の方々が判断すべきことだからです」(長谷部課長)
 もっとも、市としては、伝統行事存続に必要な支援も行っている。例えば、ナマハゲの面や衣装の修繕等が必要になったときに、補助金を出すことなどだ。今後も、当事者である集落の人たちの意思を尊重しつつ、効果的なバックアップを継続していくと長谷部課長は語った。

※ その地域に住む人々を指す「定住人口」でもなく、観光に訪れた「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々のこと

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