ゼロカーボンに向けたエネルギー戦略
野辺地柴崎風力発電所と地域貢献スキーム
2022年3月に運転を開始した青森県の野辺地柴崎風力発電所は、運営にあたって地元・野辺地町の活性化につながるスキームが組まれている。今後の風力発電事業の一つのあり方を示す、そのスキームを紹介する。
風力発電事業のテーマは地域活性化
青森県の野辺地柴崎風力発電所は、2022年3月に運転を開始したが、プロジェクトの起源は14年にまでさかのぼる。野辺地町は以前から再生可能エネルギーの利用を考えていたが、高額な設備投資などがハードルとなっていた。そこで町は民間会社による事業化を検討。その相談を受けた地元の開発電業株式会社が早速調査を開始、15年11月にJR東日本エネルギー開発株式会社(JED)に風力発電事業実現のための協力を求めるに至った。
話を受けたJEDは翌月、野辺地町に共同事業として提案する。示したテーマは「地域活性化」だった。町の同意を得たJEDは、開発電業と共同出資し、野辺地柴崎風力発電合同会社を設立。さらに19年3月には野辺地町も出資し、事業は本格化していく。
その後も風車メーカーの選定、住民説明会の実施など慌ただしい日々が続いた。工事着工は21年4月。本プロジェクトがスタートした14年から22年3月の運転開始まで、約8年の月日を要しており、風力発電事業を実現するまでの困難な道のりがよく分かる。
青森県・野辺地柴崎風力発電所。風車の奥に陸奥湾と下北半島を望む(2022年6月撮影)
収益の還元に加え地域の魅力を発信
この風力発電事業で注目したいのは、地域貢献のスキームだ。
合同会社は継続的に固定資産税を町に納めるほか、町は「野辺地町農山漁村活性化基金」を創設。売電収入のおおむね1%が基金に積み立てられ、農林水産業へ寄与する事業へ活用される。さらに収益の一部は、町の活性化事業などに使われる。
加えて、今後は地産商品のPRなど、JEDだけでなくJR東日本グループとして協力できることを見極め、町の魅力を発信していく予定だという。
こうした発電事業を軸とした地域貢献のスキームは、自治体も加わった風力発電事業のあり方を示す一つの好例であり、これからの活動にも注目が集まる。
風車が建設されるまで(野辺地柴崎風力発電所)
風車はシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー社製。中国から海上輸送された(左上) 風車はブレード(羽)だけで60m。各パーツが巨大なため、夜間に複数日に分けて特殊車両により現地まで運ばれた(左下) 主な風車のパーツは4本に分割されたタワー(柱)、3枚のブレード、ナセル(タワー上部の機械室)などで専門技術者によって組み立てられた(右)