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オリジナルデザインの「キキ&ララ モノレール」は、トゥインクルツアー編成とキラキラスター編成(写真)の2編成が運行している
東京モノレール
お客さまの「満足・感動」を全員で創る空港アクセス路線
コロナ禍により羽田空港を利用される国内外のお客さまが途絶え、東京モノレールの利用者は激減した。それに負けじと社員たちは、心を新たにサービスの充実に努めていた。そんな彼らの姿、思いを紹介する。
「東京モノレールにしかない価値」をさらに磨き上げる
2018年の年の瀬、営業部駅業務グループ課長の及川雄一さんは、会社から東京モノレールのブランドコンセプトの策定メンバーに加わるよう指示を受ける。
1964年の東京オリンピック開幕直前に開業した東京モノレールは長年、羽田空港と都心を結ぶ唯一のアクセス路線としての役割を担ってきた。だが今では他社線や空港連絡バスの拡充など、交通手段の多様化が進み、空港アクセスを取り巻く競争環境は激化している。その中でお客さまから選ばれる存在であるため、東京モノレールならではの価値をブランドとしてさらに磨き上げる必要性が高まっていた。
「私自身は『そもそもブランドって何?』というところからのスタートでした。まずは当社ならではの価値を発見しようと、これまでにお客さまからいただいたお褒めの言葉を見つめ直すことから始めました」(及川さん)
営業部 駅業務グループ 課長
及川 雄一さん
そうするうちに及川さんは、東京モノレールの高い定時運行率、車窓からの景色の素晴らしさ等のみならず、「ゲリラ豪雨に見舞われたときに、駅員が傘を貸してくれた」「乗り換えが分からず困っていたときに、丁寧に案内してくれた」といった社員の何気ない心遣いに、多くのお客さまが感動されていることに気付いたという。「これを一部の社員だけでなく、全員が実践できれば、きっと当社はお客さまに『また乗りたい』と思っていただける鉄道会社になれるはずだ」と策定メンバー間で議論を重ねた結果、打ち出されたのが「東京モノレールシアター」というブランドコンセプトである。
これはお客さまを東京モノレールというシアターに訪れた「観客」、社員を観客を迎え入れる「キャスト」に見立て、キャストが観客のために全力を尽くすことで、優れた舞台を見終わった後のような感動(移動+αの価値)をお客さまに提供しようというものだ。
「東京モノレールの車両や駅舎を舞台にたとえれば、お客さまと直に接する機会の多い駅員や乗務員は役者、安全で快適な移動空間を提供する車両・施設整備担当の社員は大道具や舞台美術の役割を担っているといえます。各キャストがそれぞれの持ち場で、『お客さまのために、自分は何ができるだろう』と考え、行動することが、よりよい舞台を創り上げる上で、とても大切になります」(及川さん)
現場の駅社員がイベントを企画・運営
「東京モノレールシアター」のブランドコンセプトは、1年余の準備期間を経て、20年3月よりスタートした。営業部営業戦略グループ副課長の出口淑惠さんは、このコンセプトを最初に聞いたとき、「当社らしくていいな」と感じたという。
「浜松町駅から東京モノレールに乗車するお客さまの多くは、羽田空港に向かわれます。既にその時点から旅気分になられています。わくわくするような非日常的な空間という点で、モノレールとシアターは確かに似ていると思いました」(出口さん)
営業部 営業戦略グループ 副課長
出口 淑惠さん
当時、出口さんはサンリオとのコラボレーション企画の立ち上げを担当していた。数あるサンリオのキャラクターの中でも、羽田空港といえば「空」ということから、「双子のきょうだい星」という設定である「リトルツインスターズ」のキキ&ララを選択。モノレールの車体や車内にそのイラストを施した「キキ&ララ モノレール」の運行準備などに取り組んでいた。
だが、その準備を進める最中、新型コロナウイルス感染症の拡大に見舞われる。出口さんはお客さまに「キキ&ララ モノレールに乗りにいらしてください」と積極的にアピールできないことに、強い悔しさを抱いた。
「そんな中でも21年夏には、賞品にキキ&ララのグッズを用意したスタンプラリーを何とか開催にこぎつけました。参加者の方から『こんなときだからこそ、開催してくれてありがとう』という言葉をいただけたことが、大きな励みになりました」(出口さん)
「キキ&ララ モノレール」にちなんだ、さまざまな商品を企画・発売。駅でのディスプレイも工夫している
一方、羽田空港第1ターミナル駅に勤務している駅務指導掛の栁町拓麻さんは、お客さまに車両の歴史や個性を通して東京モノレールの魅力を知っていただくため、22年8月にデビュー25周年を迎える2000形車両のイベント企画を思案した。
「他社でも、車両の周年イベントを開催している例は多く、当社でもできないかと考えました。駅に勤務している鉄道好きの同僚たちとアイデアを練り、本社に提案しました」(栁町さん)
営業部 羽田空港第1ターミナル駅 駅務指導掛
栁町 拓麻さん
しかし、当時本社の営業部はコロナ対応などに追われており、身動きがとれない状況にあった。その最中、栁町さんは出口さんと顔を合わせる。「あの企画、そろそろ準備を始めないと間に合いません」と訴える栁町さんに対し、出口さんは「駅主導の企画として、企画書を提出してみないか」と提案した。
「すると、栁町さんから非常に完成度の高い企画書が提出されたんです。栁町さんたちの本気度に応えるためにも、この企画はぜひ実現しなくてはならない。調整などの実務も彼らに託してみようと思いました」(出口さん)
栁町さんたちは、駅社員だけでなく、2000形の運転や整備に携わる乗務区や車両区の社員等にも協力を呼びかけ、さらに構想を深めていった。グッズの製作についても、現場社員自ら原価計算を行い、販売価格や生産量を決定した。
「今回、本社が私たちに裁量を委ねたことは、大きな経験となりました。駅での通常業務以外にも、お客さまのためにできることはたくさんあると気づかされたのです」(栁町さん)
2000形車両のデビュー25周年記念グッズは現場主導で製作。慣れない原価計算から販売価格、生産量の決定まで担った
安全と安心の提供により舞台を支え続ける
前述したように「東京モノレールシアター」では、車両や施設の保守・整備を担当している社員は、大道具や舞台美術の役割に見立てられている。彼らの最大の使命は、事故なく時間通りに目的地に到着するという、"安全"かつ"安定"した輸送を常に提供し続けることだ。中でも最優先すべきなのは安全である。技術部施設区(線路)班長代理の堀尾卓司さんはこう語る。
「保守点検作業では、効率性やコストの追求も大事ですが、そのために安全が損なわれてしまってはなりません。保守点検の際に判断を迫られたとき、『どちらが安全第一に資するか』という観点で考えるようにしています」
技術部 施設区(線路) 班長代理
堀尾 卓司さん
もちろん、事前の保守点検を万全に行っても、トラブルが起きてしまうことはある。そんなとき、大道具・舞台美術担当に求められるのは、まず現場に駆け付け、情報を収集し、適切な打ち手を講じることだが、技術部施設区(電気)班長代理の伊藤颯政(りゅうせい)さんは、「より大切なのは、トラブルに対処したあと」だという。
「何かトラブルが起きた場合、必ず原因と解決策を分析し、既存のマニュアルやチェックリストに改善点を反映させるようにしています。そうすれば同じ原因でトラブルが再発したときに、スムーズに対応できるんです。その過程を経ることで、当社のマニュアルは常に進化しています」
技術部 施設区(電気) 班長代理
伊藤 颯政さん
一方で、鉄道会社には安全とともに、定時運行という安定も求められる。特に東京モノレールの場合は空港利用者が多いため、運休や遅延が発生した際に、お客さまに及ぼす影響は、甚大なものとなる。
車両の保守・整備を担当する技術部車両区班長代理の榎田裕志さんは、「大きな車両故障の発生時だけでなく、軽微な車内の空調不具合などにも備えて、入れ換え可能な車両を常に用意するようにしています」と話す。
榎田さんは、「東京モノレールシアター」のコンセプトが打ち出されてから、車両を整備するときの意識にも変化が生じたという。
「例えば車内の窓ガラスが汚れていると、せっかくの車窓からの眺望が台無しです。そのため清掃員の方に窓掃除を任せきりにせず、きちんときれいになっているか、車両区の社員も自ら点検するようになりました。『お客さまに喜んでいただくために、自分たちは何をすべきか』ということを考えるようになったと思います」(榎田さん)
技術部 車両区 班長代理
榎田 裕志さん
現場への権限の移譲をさらに進めていきたい
このように東京モノレールは、社員一人ひとりの意識改革と創意工夫によって、ブランド価値の向上を図ろうとしている。照井英之代表取締役社長は、次のように語る。
「お客さまのニーズに応えることができれば、"満足"を感じていただけます。しかし、その上の"感動"のレベルにまで高めるには"驚き"の提供が条件になると考えています。『モノレールって、こんなことやってるんだ!』『モノレールってチャレンジングだね!』。そんな驚きと感動を直接お客さまに提供できるのは、現場の社員一人ひとりです」
そのため照井社長は、2000形のデビュー25周年記念イベントの運営を本社ではなく駅社員が主導したように、さらなる現場への権限の移譲を進めていこうと考えている。
「東京モノレールは、空港へのアクセス路線であるだけでなく、沿線にはアクティビティ施設やライブハウスなど、新たなスポットが生まれつつあります。社員には、当社イメージのさらなる向上のために沿線の魅力を掘り起こし、それをお客さまに伝えていく役割も担うことを期待しています」(照井社長)
「東京モノレールシアター」は今後、どのような舞台を見せてくれるのか。実際に足を運び、東京モノレールにしかないドラマをご覧になってはいかがだろうか。
照井 英之
代表取締役社長