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メタバースとリアル
Case.1 クラスター株式会社
「最も敷居の低い」メタバース・プラットフォームを目指す
日本最大級のメタバース・プラットフォーム「cluster」事業を展開するクラスター株式会社が目指すのは「最も敷居の低いメタバース」。そのメタバース・プラットフォームとは、どのようなものなのだろうか──。
メタバース空間に企業が期待すること
cluster(クラスター)は常時複数の「ワールド」「イベント」が開設されたメタバース・プラットフォームである。簡単なアカウント登録とアバター作成を経れば誰でもユーザーとして参加できる。
「エンタープライズ事業部ではclusterにおける法人イベントの企画・進行・運営等も行っています。イベント参加をきっかけに、メタバースの世界観を体感。そのまま"住民"になるユーザーも少なくありません」と話すのは、クラスター株式会社ビジネスプランニング本部エンタープライズ事業部マネージャーの亀谷拓史さんだ。
亀谷 拓史さん
クラスター株式会社
ビジネスプランニング本部
エンタープライズ事業部 マネージャー
家から音楽ライブに参加したい──そんなアイデアを発端に2015年、創業者兼CEO・加藤直人さんが同社を起業。大規模バーチャルイベントを開催するため、17年にclusterが公開された。その後エンタープライズ事業に着手。近年は参画する法人、そして自治体の数も右肩上がりで増えているという。
例えば20年8月12~31日には人気のポケットモンスターとコラボし、「ポケモンバーチャルフェスト」をオープン。「みんなでつくる、夏の思い出」をテーマにしたバーチャル遊園地で、ミッションの成果に応じてテーマパーク内のアトラクション・コンテンツが増え、徐々にテーマパークが完成していくという試みで、参加ユーザーの反応も上々だった。そうした法人・自治体からは主に、①自社商品・サービスの広告・販促プロモーション、②VR入社式などの社内活用、③リアルでできないことの実現、④コミュニティ活動、などを期待されるケースが多いという。
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渋谷区公認の「バーチャル渋谷」が拡張してできたエリア「バーチャル原宿」(上)や、メタバース・プラットフォーム「cluster」で生まれたカフェ系ワールドで人気の高い「いちこんカフェ」(左下)など、メタバース空間は次々と生まれている。その世界を広げるべくclusterではメタバース空間でカンファレンスも行っている(右下)
能動的アクションとインタラクティブな体験
同事業部の手がける法人イベントについて、亀谷さんは「リアルにおける大規模コンベンション施設で数日間だけ開かれる"点"の施策とは一線を画する」と話す。
「cluster上のワールド・イベントは半永久的に残り、ブースを取り壊すこともなければ撤収する必要もありません。住民が日頃どのように回遊しているのかもデータで分かります。その意味では、渋谷みたいな場所に"新しい店舗を出す"感覚に近いはずです。店舗同士が勝手にコラボするなんてこともあるかもしれません」
個々が自律的に振る舞う状態を「自己組織化」といい「メタバースは自己組織化された構造体」といわれることもある。cluster住民、参画企業、そしてクリエイターたちは、そんな自己組織化された関係に近いのかもしれない。
コロナ禍ではオンライン上の非対面コミュニケーションが普及し、多くの人々の行動様式が変化した。世代を問わずビデオ会議ツールも使われているが、亀谷さんはこうしたオンライン化により「人の行動が受動的になった」と指摘する。
「ウェビナー(※)ではパソコン画面の前に座り、あらかじめ決められたタイムラインに淡々と従います」
しかし例えばこれがメタバース就活なら、リアル就活と同様、自分のアバターの"足"で興味ある会社のブースに向かわなければいけない。
「もしかしたら目的地の途中、別のブースに興味を惹かれ、そちらに参加したくなるかもしれません。そうしたデジタル空間上での能動的なアクション、あるいはアバターを通じたインタラクティブな体験はメタバースならでは。結果として熱量が違います」
※ ウェブとセミナーを合わせた造語で、インターネット上で配信するセミナーのこと
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同社の社内ミーティングはメタバース空間で行われることもある
誰でもワールドやアバターを作成できる世界に
同社が目指すのは「最も敷居の低いメタバース」の実現である。その象徴が20年3月のスマホアプリ版のリリース。そして、その時期にエンタープライズ事業を開始。さらに偶然にもコロナ禍と重なったことから、ゲームユーザーなどメタバースのコア層以外からの関心が爆発的に高まり、問い合わせ件数も急増したという。
直近では、特別な知識がなくても自らが想像したワールドやアバターを作成・アップロードできる「ワールドクラフト」「アバターメイカー」が実装された。これまでワールドやアバターの作成は専門スキルを要する外部アプリのみに対応していたが、この機能実装によって同社の「敷居の低さ」の実現に向けた取り組みは一段と加速していくだろう。
クリエイターがつくったアイテムを、一般ユーザーのアバターが自由に購入できるようにするなど「クラスター上で個人間の商取引が行われるメタバース経済圏をつくりたい」と話す亀谷さん。そのためには、メタバース体験者の数を増やし、世界中のより多くのクリエイターを巻き込む必要がある。メタバース経済圏構築に向けた、今後の同社の動きから目が離せない。