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DXで「何」を変えるのか?<br>JR東日本の取り組み②<br>現業の課題は自らで解決<br>現場発! DXへの挑戦

DXで「何」を変えるのか?
JR東日本の取り組み②
現業の課題は自らで解決
現場発! DXへの挑戦

JR東日本ではWaaS共創コンソーシアムのほかにも、現場の課題解決を起点とした「現業職場主導のアプリ開発」が各地で行われている。千葉支社木更津統括センターと秋田支社各設備技術センターによる、それぞれのアプリ開発の取り組みを紹介する。

野生動物の出現場所を通知 獣害情報共有アプリ

 JR東日本において駅・運転士・車掌・車両整備・保線等の仕事で働く社員は、日頃から各エリア特有の業務課題に直面することも多い。
 千葉支社の木更津統括センターの乗務員たちを悩ませているのは、鉄道運行における列車と野生動物の接触事故だ。防護柵など接触回避措置も取られているが、それでも内房線内では猪・鹿を合わせ2022年度で100件を超える衝突が発生している。
 接触が起これば運転士は列車から降りて車両の安全点検を行う。場合によっては、自らの手で野生動物の死骸を線路の脇にどかすこともあるという。
 「この辺りでは主に猪・鹿・キョン(鹿の一種)が出ますが、これまで何が・いつ・どの場所で現れたかは、乗務員間の会話で共有することで役立ててきました。しかし、それはその人に会えたから聞き出せた偶発性の高い情報。必然性のある情報管理の仕組みがほしいと考え、獣害情報共有アプリ『アニレポ』を開発しました」と同センターの松本悠暉さんは話す。
 アニレポでは乗務員が運行業務で使用するiPad miniの位置情報機能が活用される。運転中、野生動物が目前に出現したら、アプリ上のボタンをワンタップすれば通報は完了。どの動物がいつ・どこに現れたかをデータベースに登録、後続列車に通知される。通知を受け取る側のアプリ画面では、ポップアップ表示と音声で報され、運行業務に支障は出ない。
 「データが蓄積されれば、野生動物が出没しやすい位置の情報を事前に確認できます。さらに将来的にそれをビッグデータとして活用できれば、より高度なデータ解析も可能になるでしょう」(松本さん)

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開発業務は「毎日が予測不能」「職場内で完結しない」

 イノベーション戦略本部では、かねてより「SDHA」と呼ばれる技術開発の社内スキームを有していた。Scheme of Development High-speed Applicationの略称であり、アプリの高速開発スキームを意味する。松本さんらも同スキームを使いながら、外部開発会社とともにアプリ開発を行った。
 「導入以前は無線のみで通報していましたが、どのキロ程(※)で何が発生したのかを目撃してから即座に報告するのは困難ですし、情報を受ける側も伝えられたキロ程をモニターで探しながら運転するのは大きな負担でした。情報発信・取得をとことん簡単にすることにはかなりこだわっています。導入後は無線との併用で情報量が圧倒的に増加しました」(松本さん)
 開発後、同じような鉄道獣害に悩む現場が集まる動物サミットでアニレポを披露すると、「自分たちも導入したい」との声が届いた。実際、長野支社の小海線統括センターでは、小海線版アニレポ導入に向けた開発を進め、24年4月からの本格導入を目指している。
 木更津統括センターでは、アニレポの導入拡大に注力すべく、23年4月から新たなメンバーが参画している。その一人で運転士の滝澤亮介さんは、「運転士の業務は一定のパターンで組まれるため、ある程度経験すれば慣れていきます。しかしアニレポの業務は良い意味で毎日が予測不能、これまでにない体験をしています。運転士の仕事と違った楽しさがあります」と話す。
 また、同じく運転士の原奈緒子さんは、「参加して間もないため、私自身は直接経験していませんが、開発会社などとの協力が必要で、職場内だけでは完結しない仕事です」と語り、そこにやりがいを感じているという。
 現業職に求められるスキル・素養が様変わりする中、同センターの眞田敬介副長はこう述べた。
 「これまで鉄道獣害は解決すべき優先順位が決して高いとは言えなかったのかもしれません。ですが、現実的には乗務員に大きな負担がかかっている。今回はそこに一石を投じ、しかも困っていた課題の一つを、自分たちで解決できました。こうした人材を一人でも多く輩出し、JR東日本の列車安全運行や現業職場の業務改善に寄与していきたいです」

※ 鉄道で起点からの距離をキロメートル単位で示したもの

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(左から)JR東日本 千葉支社 木更津統括センターの滝澤亮介さん、原奈緒子さん、松本悠暉さん、眞田敬介副長

乗務員の声から生まれた列車巡視映像共有ツール

 秋田支社でもSDHAを活用したアプリ開発が進められている。列車巡視映像共有ツール「トレイン・パトロール」、通称「トレパト」である。
 トレパトは列車の運転席にiPhoneを設置し、走行中に見える映像を動画撮影&クラウド保存するアプリ。撮影データのリモート閲覧が可能となる。データには日付はもちろん線区・キロ程などの位置情報が付与され、場所を指定したデータ検索も可能だ。過去映像と最新映像の差分比較は、リモートでの異常箇所検知に役立っているという。
 アプリ開発のきっかけは乗務員の素朴な疑問だった。開発チームを代表し、秋田保線設備技術センターの成田陽介さんは話す。
 「私たち設備系の社員は保線・電力・信号通信・土木の各種設備技術センターに分かれ、それぞれの専門分野、いわば縦割りで業務を担当しています」
 これはいずれのセンターにも共通しており、中でも重要な任務が列車添乗だ。走る列車から降積雪状態・雪庇(せっぴ)状態・雑木状態・各種設備状態等を目視で確認し、異常箇所を判断する。列車添乗は高い頻度で行われることもあり、毎度対応する乗務員からすれば、「なぜ異なるセンターの設備系社員がばらばらにやって来るのか」「1回で済ませられないのか」といった疑問があった。
 「そんな話をきっかけに、パラレル化した業務を一つにまとめたいと考えたのです」(成田さん)

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 トレパト導入前後で技術員の業務も大幅に改善された。これまでは列車添乗やルートウォッチングでの気付きを基に各種対応を検討していた。
 しかしトレパト導入後は、常に最新の線区状況を過去映像と比較しながら確認できるようになったことから、他のセンターが撮影した映像を、別のセンターが参考にできるようにもなった。結果、いずれの設備技術センターでも業務フローが刷新され、トレパトは移動時間の減少、倒木等への衝突の未然防止、そして列車添乗の削減等に貢献。さらには、若手社員の教育ツールにも活用できたという。
 「今は私たちのような設備系社員でも社内外の技術を取り入れながら、自分たちの業務課題を解決できる時代です。誇りを持ってメンテナンスしている設備を守るためにも、自ら業務変革を起こしていきたいですね」と、同じく開発メンバーである秋田土木設備技術センターの安田祐輔さんは語る。
 トレパトもまた、SDHAでの進捗報告を契機に別の支社でも試験運用が始まるなど、今後の導入が予定されている。
 最後に開発メンバーである秋田電力設備技術センターの三浦雄兵さんはこう話す。
 「今回のアプリ開発を通じ『自分たちでできること』が実はたくさんあると感じ、自グループ内でIT・デジタルにまつわる技術的な勉強会を開催するようになりました。これをきっかけに、今後は現場の業務課題について、可能な限り、現場を知る技術員で解決したいと考えるようになりました」
 現場に潜在する業務課題を起点にしたアプリ開発。JR東日本から続々と輩出されていく「現場を誰よりも知る最強のデジタル人材」は、今後もより多くの業務課題解決に資することだろう。

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(左から)JR東日本 秋田支社 秋田土木設備技術センターの安田祐輔さん、秋田保線設備技術センターの成田陽介さん、秋田電力設備技術センターの三浦雄兵さん

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